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「・・・」
G.ファウストの気迫に押され、しばらく黙り込んだ烏大老はこう続けた。 「・・・バーテックスに来い。」 「お前の孫を捨てて、バーテックスに入れと言うのか?」 「そうじゃない。孫はバーテックスの孤児院で預かる、そのほうが安全なはずだ。」 「孤児院か・・・」 「孤児院の安全は私が保証する。バーテックスに来ればお前の身柄の安全も保証する。」 「そうか、それが一番なのかも知れんな。」 G.ファウストは高ぶった気持ちを落ち着かせ、自分を納得させる。 「ああ、それが一番安全だ。今日にでも私が迎えにいこう。」 「いいのか?」 「何を言う。お前に孫を預けたのは私の責任だ。死ぬまでしっかり面倒を見るさ。」 「孫が死ぬまでか。まだまだ長生きするな、お前は。」 「冗談のうまいやつめ。とにかく今日の夜に迎えにいく、準備しておけ。」 「了解。それともう1つ聞きたいことがある。」 「なんだ?」 「お前の孫に、私のACの倉庫を見せてもかまわないか?」 「どうしてだ?」 烏大老が不思議がる。 「見たがってるんだよ、あの倉庫を。」 「まあ最後だ。状況の説明と一緒に見せてやってくれ。」 「了解。どうなっても、恨むなよ。」 G.ファウストはそう言って通信を切った。 PR |
G.ファウストは自室に入って通信機を起動する。
「烏大老か?ファウストだ。」 「ファウスト?何の用だ?」 突然の通信に、烏大老は非常に驚いているようだった。 「少し面倒なことになった、話を聞いてくれ。」 「どうした?」 「この村の近くに武装勢力の拠点があるらしい。」 「ああ、そうだな。バーテックスにもその情報は入っている。」 「アライアンスがその拠点の制圧・接収を近日中に計画しているらしい。」 「それは初耳だ。」 「場所が場所だけにこの村にも飛び火しかねない。」 「そうかもしれん。バーテックスがアライアンスの部隊を押さえるか?」 「バーテックスは関係ないだろう?アライアンスが動き出したら、俺がACを出す。」 「お前がACを!?」 烏大老が声を荒げる。 「それしかないのだ。」 「アライアンスの部隊に手を出す気か?」 「そうなるな。」 「馬鹿が!アライアンスに手を出せば、お前は奴らの標的になるだけだ!!」 「だがお前の孫を守るにはこれしかない!」 |
「おじちゃん、何するの?」
昼食とその片づけが終わったあと、義孫がG.ファウストに聞いてくる。 「そうだな、お前は何がしたい?」 義孫と過ごす最後の1日かもしれないと考えると、G.ファウストには何をするか決められなかった。 「お勉強は嫌!」 「じゃあお勉強以外で考えよう。何かやってみたいことはあるか?」 「うーん、あの倉庫に入ってみたい!」 「あの倉庫に入りたいのか?」 G.ファウストは思わず顔が引きつる。 「うん。だってこの辺りで行ったことないの、あの倉庫だけなんだもん!」 義孫は満面の笑みだ。 なにがあるかわからないからこそ、あの倉庫の中に入れるのが楽しみなのだろう。 「少し待ってくれ、あの倉庫はおじいちゃんのなんだ。入っていいかおじいちゃんに聞いてくる。」 「うん、わかった!」 楽しげな義孫の笑顔を見ていて心が痛む。 |
玄関に近づくと、ちょうど義孫が散歩から帰ってきたところだった。
「おじちゃん、汚ーい!」 それが義孫がG.ファウストを見ての第一声だった。 今着てる普段着は埃まみれの倉庫内に置いておいたのだ、確かに埃まみれで汚い。 「ああ、ちょっと掃除をしてたんだ。着替えないとな。」 G.ファウストはそう言いながら、義孫と一緒に玄関に入る。 「俺はこの汚い服を着替えてくる。悪いがお前は先に昼食の支度をしててくれないか?」 「うん、わかった!」 義孫は走って台所へ向かう。元気なやつだ。 G.ファウストも別の服に着替えたあと、台所へ向かい、義孫と一緒に昼食の支度をした。 |
「さて始めるか・・・」
義孫の姿が見えなくなるまで待ったあと、G.ファウストは家の裏の倉庫へ向かった。 義孫には立ち入りだけでなく近寄ることすら禁じている倉庫。 倉庫の中にはG.ファウストの愛機のAC"パンツァーメサイア"と、その予備パーツや弾薬など一通りが雑多に置かれている。 「まさか再びこいつを動かすことになるとはな・・・」 複雑な気持ちのまま埃まみれのパイロットスーツに着替え、パンツァーメサイアに乗り込む。 昔の勘を頼りに計器類を操作し、ACを通常モードで起動する。 パーツの状態を確認すると全て良好だったが、武器までは確認できない。 もうかなりの年月放置してあったものだ、弾があっても火薬が湿気で使い物にならない可能性が十分にある。 だがここで実際に銃器を撃って確認するわけにはいかない。 比較的音のしないブレードのみを稼動テストしてみると、ちゃんとレーザー刃が形成される。 「ブレードがあれば十分だ。」 最低限の戦闘力があるのを確認して安堵したあと、テストモードで操作の感覚を思い出す。 最初は戸惑ったが、繰り返すうちに昔と変わらない操作を行うことができた。 「これならどうにかなるか。」 ACの通常モードを終了させ、降りて普段着に着替えて倉庫の戸締りをしっかりして家に戻る。 |
「おじちゃん、今日は何するの?」
朝食とその片づけが終わり、することがなくなった義孫がG.ファウストに聞いてくる。 「今日は天気がいい。散歩でもしてきな。」 「うん。おじちゃんは?」 「俺は今日はこのあと少しやることがあってな。散歩の後で一緒に何かしよう。」 「約束だよ?」 「ああ、約束だ。」 「じゃあいってきます!」 義孫は元気にそう言って、玄関を飛び出していった。 「気をつけてな!」 G.ファウストもそれに答えて元気に見送った。 |
(戦火は避けられんか・・・)
家の中に入り玄関の鍵を再び閉めてリビングへ向かいながら、Gファウストは考え込む。 「おじちゃん、顔怖いよ?」 リビングに入ると義孫が心配そうに見つめてきた。 「ああ、すまん。何でもないさ。俺も今ご飯食べるから少し待ってな。」 「うん。」 (この日常も、今日で終わりかも知れんな・・・) 朝食を食べながら、G.ファウストはそう考えていた。 |
「で?伝えたいことは何だ?」
「アライアンス本部が、この近くに小規模な武装勢力の拠点があるとの情報を入手したのです。」 「武装勢力の拠点?」 ここは人気のない場所だ。武装勢力の拠点には手ごろだろう。 「はい。そしてその制圧・接収が近日中に行われます。」 「だからなんだ?この村は関係ないだろう?」 「拠点がこの村の近くにある以上、戦火がこの村に飛び火する可能性も否定できません。」 「なるほど、確かにそうだな。」 G.ファウストは納得しながらもこう続ける。 「だがもし仮にだ。俺がその武装勢力に通じていたらどうする?」 「関係ありません。大変失礼ながら、それも考慮した上で、あなたにこの話をお伝えしたのです。」 ジャウザーの顔は確信で満ちていた。 「彼らがいくら戦闘に備えたところで、アライアンスとの戦力差は歴然です。」 「確かにな。」 「それに彼らがこの情報を入手して武装放棄するのであれば、お互いに無駄な血を流さずに済みますから。」 「そうだな。だがあいにく、俺は本当にその武装勢力とやらは知らんのでな。交戦は避けられんだろう。」 「状況をご理解いただけたのならば、避難をお勧め致します。」 「悪いがそれはできんな。俺はこの家とあの義孫を守ると、友と約束しているからな。」 「そうですか。警告はさせていただきました、幸運を。」 「ああ。用が済んだならもう帰ってくれ。」 「ではこれにて。早朝より、失礼しました。」 「ジャウザー、お前はまだ若い。命を無駄にするな。」 「胸に留めておきます。」 ジャウザーは一礼をして去っていった。 |
「誰か知らんが、こんな早朝から何の用だ?」
「早朝より失礼します。」 玄関を開けた先には好青年が立っていた。見ない顔だ。 「誰だ?」 「申し遅れました。私はアライアンス所属レイヴン、ジャウザーと申します。」 「アライアンスのジャウザーか。何の用だ?」 「お聞きしたいこととお伝えしたいことの、2つがあります。」 「先に質問を聞こうか。」 G.ファウストは玄関の外に出て鍵をかける。 「わかりました。今後のあなたの立場についてです。」 「俺の立場?」 「あなたもご存知とは思いますが、アライアンスとバーテックスの対立は激化する一方です。」 「そのようだな。」 「あなたは今は前線を退いているとしても仮にもレイヴン。あなたの出方次第では我々も対応を考えねばなりません。」 「俺はどっちにもつかん。」 「どちらにもつきませんか。独立レイヴンということでよろしいですね?」 「俺はもうレイヴンではない!ただの一般人の立場など、どうでもいいだろう!?」 G.ファウストは思わず声を荒げる。 「おじちゃん?」 義孫の声が玄関越しに聞こえる。 怒鳴り声を聞いて心配してきたのだろう。 「何も心配いらないさ。お前さんはゆっくりご飯をお食べ。」 G.ファウストは玄関越しに優しい声で義孫に語りかける。 義孫がリビングへ戻る足音を聞きながらジャウザーの方を向き直り、話を再開する。 「今の俺にはあの子がいるんだ。もう戦場には出向けんのだよ。」 「そうですか、わかりました。G.ファウストは既にレイヴンではない、報告はそういうことにしておきましょう。」 G.ファウストは非常に不快だったが、義孫を心配させないためにも感情を押さえ込んだ。 |
「今日もおじいちゃんがきてたの?」
目をこすりながら、烏大老の孫が起きてきた。年は6歳くらいだ。 「ああ、だがまだ忙しいからなかなか会えないみたいだな。」 「おじちゃんは、僕と一緒にいてくれる?」 「もちろんさ。少し早いがご飯にするか。」 「うん。」 「よーし、じゃあお前も手伝え。自分で作ったご飯はうまいぞ。」 「うん。」 烏大老の孫の家事の手際はとてもいい。 全てG.ファウストが教え込んだものなのだが、飲み込みが非常に早いのだ。 (これならこの子1人でも生きていけるな。) 義孫の手際のよさを見ながら、G.ファウストはそう感じていた。 この子を1人にするつもりなど元よりないのだが、G.ファウストも烏大老も既にかなりの高齢なのである。 2人ともいつ老衰で倒れるかわからない。 しかも烏大老はまだ現役レイヴンだ、いつ死んでもおかしくはない。 2人がいなくなってしまえば、この子にはもう身寄りがない。 だからこの子が1人立ちできると確信が持てるというのは、非常に大事なことなのだ。 「おじちゃん、どうしたの?」 義孫が不思議そうな顔をしながら、G.ファウストに聞いてくる。 ずっと自分のことを見つめられているのに疑問を感じたのだろう。 「いや、なんでもないさ。お前なら大丈夫だ。」 「? 変なの!」 「ははは。さて用意も終わったことだし、食べるか!」 「うん!いただきます。」 「よし、行儀正しくてよろしい。では私もいただ」 G.ファウストも「いただきます」と言おうとしたのだが、玄関の呼び鈴が鳴った。 「誰だ、こんな早朝に。先に食べててくれ。」 朝食のお預けを食らい、不満げな表情で玄関へ向かう。 |