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その日の夜、烏大老が車で孫を迎えに来た。
「おじいちゃん!」 烏大老が車から出てくるなり、孫は烏大老に飛びついた。 「おー、大きくなったなぁ。」 烏大老は孫の頭を優しくなでながら、G.ファウストに話を振る。 「ファウスト、準備はできているか?」 「ああ、荷物はここにあるので全部だ。」 「そうか。じゃあ積み込もう。お前は先に車の中で待ってな。」 烏大老はそう言いながら、孫を担いで車のシートに乗せる。 孫は言われたとおりに車の中でおとなしくしていた。 「ファウスト。」 荷物が積み終わったあと、烏大老はG.ファウストに話しかけた。 「何だ?」 「あれからアライアンスの動向を探っていたが、武装集団の拠点制圧作戦は今夜行われるそうだ。」 「今夜か・・・」 「機体の状態はいいのか?」 「問題ない。昼間チェックした限りでは良好だった。」 「そうか。戦闘が落ち着いたら私に通信を入れろ。すぐに迎えを向かわせる。」 「了解。恩に着る。」 「礼には及ばんさ。孫のことは私に任せろ。」 烏大老はそう言って、車の運転席へ向かう。 「死ぬなよ。」 烏大老がそう言うと同時にドアが閉まり、車が走り出す。 PR |
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「お前にはまだ難しいか。今は深く考えなくていい。」
G.ファウストはしゃがみこんで、義孫と視線の高さを合わせて続ける。 「だがすぐに戦争で物事を解決しようとするような大人にはなるな。約束してくれ。」 「・・・うん。」 「おじいちゃんもおじちゃんも、今日から世界から戦争がなくなるように戦うんだ。」 「おじいちゃんもおじちゃんも?」 義孫は不思議そうに聞いてくる。 「ああ。だが、おじちゃんまで戦いに行くとお前が1人になってしまう。」 「・・・」 「だから今日、おじいちゃんが新しいお家にお前を連れて行ってくれる。」 「・・・」 義孫は何も言わない。 「新しいお家にはお前と同じぐらいの子がいっぱいいるはずだ。仲良くしてくれよ。」 「おじちゃんは?」 「ん?」 「おじちゃんは来ないの?」 「ごめんな。おじちゃんは一緒には行けないんだ。」 「・・・」 「だが時間を見つけて会いに行ってやる。約束だ。」 「本当?」 「本当だ!」 「約束だよ?」 「ああ、約束だ。だからもう、出かける準備しないとな。家に戻ろう。」 「うん。」 |
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「汚ーい!!」
それが倉庫の中に入ってすぐの義孫の感想だった。 「あまり使わない倉庫だからな。何があるかわかるか?」 「大きくてかっこいい。何なの?」 「これはな、アーマード・コアって言うんだ。」 「アーマード・コア?」 「ああ、すごく昔は作業用の汎用重機みたいなもんだったが・・・」 G.ファウストは続きを言うか迷ったが、続けた。 「今は武器を積んで殺し合いに使われてる、戦争の道具だ。」 「戦争?」 この子は戦争というものを知らない。 物心つく前に戦争で両親を失い、G.ファウストに預けられたのだ。 「ああ。戦争ってのはね、たくさんの人が死んじゃうんだ。」 「どうして?」 「どうしてだかね・・・。理由はいろいろあるから、俺には何とも言えん。」 「例えば?」 「大事なものを守るために戦う場合もあれば、憎い相手を倒すために戦う場合もある。」 「それはいけないこと?」 「理由だけなら、いけないことだとは言い切れんな。」 G.ファウストは間を空けて続ける。 「だがその結果、関係ない人まで死んでしまう。これはいけないことだ。」 「じゃあ戦争はいけないこと?」 「ああ。戦争は本来、ないほうがいいんだ。」 「じゃあどうして戦争するの?」 「全員が同じ気持ちというわけじゃないからな。考え方の違いとかで争った結果起こるのが戦争だ。」 |
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「どうだったの?」
リビングに戻ると、期待に満ちた笑顔で義孫が聞いてくる。 「ああ、見てもいいらしい。」 「本当!?」 「本当だとも。それと少し話したいことがある。」 「何?」 「話は倉庫でだ。行くぞ!」 「うん!」 |
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「・・・」
G.ファウストの気迫に押され、しばらく黙り込んだ烏大老はこう続けた。 「・・・バーテックスに来い。」 「お前の孫を捨てて、バーテックスに入れと言うのか?」 「そうじゃない。孫はバーテックスの孤児院で預かる、そのほうが安全なはずだ。」 「孤児院か・・・」 「孤児院の安全は私が保証する。バーテックスに来ればお前の身柄の安全も保証する。」 「そうか、それが一番なのかも知れんな。」 G.ファウストは高ぶった気持ちを落ち着かせ、自分を納得させる。 「ああ、それが一番安全だ。今日にでも私が迎えにいこう。」 「いいのか?」 「何を言う。お前に孫を預けたのは私の責任だ。死ぬまでしっかり面倒を見るさ。」 「孫が死ぬまでか。まだまだ長生きするな、お前は。」 「冗談のうまいやつめ。とにかく今日の夜に迎えにいく、準備しておけ。」 「了解。それともう1つ聞きたいことがある。」 「なんだ?」 「お前の孫に、私のACの倉庫を見せてもかまわないか?」 「どうしてだ?」 烏大老が不思議がる。 「見たがってるんだよ、あの倉庫を。」 「まあ最後だ。状況の説明と一緒に見せてやってくれ。」 「了解。どうなっても、恨むなよ。」 G.ファウストはそう言って通信を切った。 |
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G.ファウストは自室に入って通信機を起動する。
「烏大老か?ファウストだ。」 「ファウスト?何の用だ?」 突然の通信に、烏大老は非常に驚いているようだった。 「少し面倒なことになった、話を聞いてくれ。」 「どうした?」 「この村の近くに武装勢力の拠点があるらしい。」 「ああ、そうだな。バーテックスにもその情報は入っている。」 「アライアンスがその拠点の制圧・接収を近日中に計画しているらしい。」 「それは初耳だ。」 「場所が場所だけにこの村にも飛び火しかねない。」 「そうかもしれん。バーテックスがアライアンスの部隊を押さえるか?」 「バーテックスは関係ないだろう?アライアンスが動き出したら、俺がACを出す。」 「お前がACを!?」 烏大老が声を荒げる。 「それしかないのだ。」 「アライアンスの部隊に手を出す気か?」 「そうなるな。」 「馬鹿が!アライアンスに手を出せば、お前は奴らの標的になるだけだ!!」 「だがお前の孫を守るにはこれしかない!」 |
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「おじちゃん、何するの?」
昼食とその片づけが終わったあと、義孫がG.ファウストに聞いてくる。 「そうだな、お前は何がしたい?」 義孫と過ごす最後の1日かもしれないと考えると、G.ファウストには何をするか決められなかった。 「お勉強は嫌!」 「じゃあお勉強以外で考えよう。何かやってみたいことはあるか?」 「うーん、あの倉庫に入ってみたい!」 「あの倉庫に入りたいのか?」 G.ファウストは思わず顔が引きつる。 「うん。だってこの辺りで行ったことないの、あの倉庫だけなんだもん!」 義孫は満面の笑みだ。 なにがあるかわからないからこそ、あの倉庫の中に入れるのが楽しみなのだろう。 「少し待ってくれ、あの倉庫はおじいちゃんのなんだ。入っていいかおじいちゃんに聞いてくる。」 「うん、わかった!」 楽しげな義孫の笑顔を見ていて心が痛む。 |
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玄関に近づくと、ちょうど義孫が散歩から帰ってきたところだった。
「おじちゃん、汚ーい!」 それが義孫がG.ファウストを見ての第一声だった。 今着てる普段着は埃まみれの倉庫内に置いておいたのだ、確かに埃まみれで汚い。 「ああ、ちょっと掃除をしてたんだ。着替えないとな。」 G.ファウストはそう言いながら、義孫と一緒に玄関に入る。 「俺はこの汚い服を着替えてくる。悪いがお前は先に昼食の支度をしててくれないか?」 「うん、わかった!」 義孫は走って台所へ向かう。元気なやつだ。 G.ファウストも別の服に着替えたあと、台所へ向かい、義孫と一緒に昼食の支度をした。 |
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「さて始めるか・・・」
義孫の姿が見えなくなるまで待ったあと、G.ファウストは家の裏の倉庫へ向かった。 義孫には立ち入りだけでなく近寄ることすら禁じている倉庫。 倉庫の中にはG.ファウストの愛機のAC"パンツァーメサイア"と、その予備パーツや弾薬など一通りが雑多に置かれている。 「まさか再びこいつを動かすことになるとはな・・・」 複雑な気持ちのまま埃まみれのパイロットスーツに着替え、パンツァーメサイアに乗り込む。 昔の勘を頼りに計器類を操作し、ACを通常モードで起動する。 パーツの状態を確認すると全て良好だったが、武器までは確認できない。 もうかなりの年月放置してあったものだ、弾があっても火薬が湿気で使い物にならない可能性が十分にある。 だがここで実際に銃器を撃って確認するわけにはいかない。 比較的音のしないブレードのみを稼動テストしてみると、ちゃんとレーザー刃が形成される。 「ブレードがあれば十分だ。」 最低限の戦闘力があるのを確認して安堵したあと、テストモードで操作の感覚を思い出す。 最初は戸惑ったが、繰り返すうちに昔と変わらない操作を行うことができた。 「これならどうにかなるか。」 ACの通常モードを終了させ、降りて普段着に着替えて倉庫の戸締りをしっかりして家に戻る。 |
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「おじちゃん、今日は何するの?」
朝食とその片づけが終わり、することがなくなった義孫がG.ファウストに聞いてくる。 「今日は天気がいい。散歩でもしてきな。」 「うん。おじちゃんは?」 「俺は今日はこのあと少しやることがあってな。散歩の後で一緒に何かしよう。」 「約束だよ?」 「ああ、約束だ。」 「じゃあいってきます!」 義孫は元気にそう言って、玄関を飛び出していった。 「気をつけてな!」 G.ファウストもそれに答えて元気に見送った。 |
